国債はリターンが低く、価格変動も小さいので、早く資産を増やしたい方には不向きの商品です。そのためか、個人投資家向けの話題になることはほとんどありません。それでも、資産状況やライフステージによっては国債にも十分活躍の場があります。では具体的に誰が、どんな状況で活用すれば良いのでしょうか?
実は国債はこれから資産を増やしていく人ではなく、これから資産を使う人に向いた商品です。資産を増やすのではなく、資産の目減りを抑えることにおいて、その特性が発揮されます。国債の活用においては、自分が資産を増やすのか使うのか、どちらの段階にいるか把握しておくことが重要です。
今回は国債を活用するべき投資家のパターンと、具体的な資産割合について考察します。今回の内容を踏まえれば、自分がどのような形で国債を組み込むのか、いつから検討すれば良いのかが見えてくるでしょう。
安全資産としてみた国債の特徴
安全資産とは
安全資産とは、資産の価値が大きく目減りするリスクが極めて低い資産のことを指します。具体的には、現金や短期国債が代表例です。一方、株や不動産のように、価格が変動して元本割れする可能性がある資産は「リスク資産」と呼ばれます。
たとえば、預けた100万円が後で99万円に減ってしまう心配をしたくない場合、安全資産を選ぶことが安心につながります。特に短期国債は、わずかな値動きがあるものの、満期までの期間が短く、発行元の破綻リスクも非常に低いため、安全資産として高く評価されています。
安全資産だけを保有する場合、大きなリターンは期待できませんが、資産を確実に守りながら少しずつ増やすことができます。安定を重視する投資家にとって、安全資産はポートフォリオの「土台」として重要な役割を果たすでしょう。
国債の安全性|単独の評価
日本国債は安全性の評価が非常に高い商品です。国債は政府にとっていわば借金の契約書であり、国債のデフォルト(利息や元本が払えないこと)は最も避けるべきことだからです。もし日本国債がデフォルトを起こすと、国内外に大きな経済的ダメージが発生します。
日本国債がデフォルトを起こすと、保有している側の国債購入資金が全額回収できなくなります。金融機関や生命保険会社、海外の金融機関に多額の損失を出すことになり、倒産が続く事も考えられます。その結果、リーマンショックのように経済の悪化や企業倒産の連鎖が起こります。
日本政府自体も、発行する国債の利回りを高くしなければ買ってもらえなくなり、また経済的混乱によって税収が落ち込むなど、予算編成においてかなり厳しい状況になることが予想されます。
これらの状況を回避するために、政府は国債の満期償還は全力で守ろうとします。その分、日本国債の安全性が担保されているとも言えます。
国債の安全性|現金との相対評価
日本国債を満期まで持つのであれば、現金預金とリスク(ここでは価値を損なうこと)はそう大きく変わりません。満期保有の場合、国債で損をするのはデフォルトした場合になりますが、日本国債がデフォルトするような場合には、日本経済の混乱から日本円の価値も大きく下がる事が考えられます。
ダメージはどちらが大きいでしょうか?これはその時になってみないとわかりません。それぞれ価値が変動する要因は多く、複雑に絡み合っているからです。悪い方を引いてしまうリスクを避けるのであれば、現金と国債どちらも持っておくことが賢明です。
国債の役割
国債の役割とは、資産を増やすことではなく減らさないことにあります。必要な時に必要な金額を用意しておく、それが国債を含む安全資産です。これは元本割れ(損失が出ること)の可能性があるリスク資産にはできないことです。
高齢になって施設に入居することを考えてみましょう。費用は月15万円とすると、15万円×12ヶ月=年間180万円の支出が必要になります。20年分なら180万×20年=3600万円です。
国債や現金預金であれば、3600万円から増えることはありませんが、減ることもありません。毎年計算通りに180万円を引き出すことに不安もありません。わずかばかりですが利息ももらえます。
手持ちの資産を絶対に減らしたくないのであれば、国債を始めとした安全資産で持っておく事が推奨されます。
国債の保有金額
老後資金
老後資金を確保したら国債で運用するのが1つ目の案です。余剰の資金があれば国債を購入しても良いですし、リスク資産に回すのもいいでしょう。
減ってしまうとまずいのが老後資金です。生活を支えるためのお金ですから、減ってしまうと精神や健康を害することになります。国債は極めて元本割れのリスクが低い商品なので、最低金額を守りたい老後資金には適切な商品です。
買うのは個人向け国債がおすすめです。1年分の利息を払う必要はありますが、いつでも額面の金額で解約できる便利さがあります。10年変動にして、毎年一定額を解約する方法が簡単ですが、利息面で少し損をします。手間は多少かかりますが、3年債や5年債を組み合わせて毎年満期を迎えるようにする方法もあります。
絶対に目減りしてほしくない老後資金の運用先としては、国債がおすすめです。
年齢に応じた安全資産
安全資産は加齢に応じて割合を増やしていくべきだという理論があります。年齢×%を安全資産で、のこりをリスク資産で持つというのが一般的です。60歳なら60%を安全資産、40%をリスク資産にします。この安全資産を国債で運用します。
安全資産は現金だけ、とする方法は簡単ですが、資産はほぼ増えません。国債もそれほど利回りが高くはないですが、ほとんどの銀行の定期預金に比べれば高い金利設定になっています。預金保証制度では1銀行あたり1000万円以上の預金は保証されないということもあります。
生活防衛資金+αを現金で保有し、残りは国債で運用することで多めに利息をもらうことができれば、年に1回は高い食事を楽しむ事ができます。残念ながら国債の利息では資産形成に対して力不足なので、生活満足度を上げるために使ってしまうことをお勧めします。
高齢になるほど安全資産を増やして資産を守る必要がありますが、増えた安全資産の使い道として国債は非常に優れています。
生前贈与・相続予定の資産
生前贈与など決まったタイミングで譲る予定の資産についても、国債で持っておく方法がお勧めです。株や不動産などのリスク資産は、相続人があなたと同じように運用できるとは限らないからです。
国債であれば、現金預金をもらったのと感覚的にはほぼ変わりません。利息を受け取りながら、満期には元本を現金として受け取ります。続けて国債を買うにしても、同じものを買えば良いのでわかりやすいです。
株の場合は減配や無配、株価低迷など売却の判断が必要なときもありますし、不動産は管理のことを知っておく必要があります。管理会社に任せてもいいですが、今後何十年のあいだ、必ず誠意ある担当者がつくとは限りません。
生前贈与であれば毎年決まった額を贈与することになるので、購入年をずらして国債を購入し、毎年一定額満期を迎えたら贈与するという方法も取れます。
相続や生前贈与など、計画的に支出をコントロールする場合は、計画的に管理できる国債がお勧めです。
教育資金・住宅購入費
教育資金や住宅購入費など、5~10年以内に使うための貯蓄にも国債の使い道があります。個人向け国債なら購入後1年経てば好きな時に解約できるので、とりあえず買っておくという使い方もできます。
学資保険や財形貯蓄など、国債より利回りの良い運用方法もありますが、これらは資金が完全にロックされるため、ギリギリまで資金を投入するには向きません。個人向け国債であれば、万が一の場合には解約して他の用途に使う事もできます。
絶対に使わないお金は学資保険や財形貯蓄で利回りや税制優遇を活用し、生活防衛資金(急な支出に備えたお金)の一部は個人向け国債にすることで、いざという時に動かせるお金を確保しつつ利息を追求できます。
教育資金や住宅購入費など、中期的に使う予定のお金に対しても、個人向け国債という形で活用の余地があります。
まとめ
国債は使う時期や金額が決まっている資産を置いておく上で適した商品です。元本保証という特徴を持ち、政府が価値を保証する必要性があり、現金化が簡単など、他の金融商品に比べ現金に近い特性を持っています。
定期預金に近い感覚で運用できることから、株や不動産・金(ゴールド)と比べても必要な知識が少なく、誰にでもお勧めすることができます。
もし計画的に使う予定があったり、絶対に減らしたくないお金があれば、多少の利息を求めて国債を買ってみてはいかがでしょうか。